
「ジオンの脱出艦艇がこっちに向かっているだって?」
「はい、艦長。」
573戦隊が展開する空域はまともにジオンの艦隊の前にあった。
「近くの友軍は?」
「10戦隊と13戦隊です、あとは単艦で合計20隻。」
「全艦に通達、砲撃戦準備、縦列体型で頭を押さえる。」
「了解」
周辺の艦艇は右舷をジオン艦隊に向けると稼働する砲塔を向けた
レイは指揮を10戦隊ハイペリオンのタキマ大佐に渡すと自ら主砲の照準装置を握った
「コウジの部隊は北側から突入させろ、艦隊直援は気にさせるな、」
「主砲、有効射程距離に入りました!!」
「斉射!!」
マゼランなどの戦艦は自然と大型のドロワに火線が集中するがその防御力に有効打を与えられずにいた
「ムサイにかまうな!あの大型艦を沈めれば今後有利になる!!」
そう叫んだマゼランの艦長は直後にブリッジごとリックドムによって粉砕された、
「カリウス!敵はまだいるのだ!気を抜くな!!」
「ハイ!大尉!!」
「306に手柄を持って行かれるなよ。」
一方コウジ達は大物に手を出さずに確実にムサイを一隻づつ沈めていった
「まずい!全機ヘスペロスの援護に戻るぞ!」
「了解!!」
死にものぐるいで突入してくるジオン艦隊は一点に攻撃を集中させ、その牙はヘスペロスにも及んできた
「右舷エンジン被弾、切り離します。」
「主砲、エネルギー供給弁大破、52サンチ砲、射撃は可能ですが旋回は不能です」
「退艦の準備を・・・」
ズゥゥゥゥン
「キャァァァァ!!」
「右舷MSデッキ直撃、大破」
「レジェンドウッドが艦の前に・・・」
「アカギ艦長!!」
すでにウッドの乗員は半数が脱出し始めている
「レイ、早く離脱しろ、こちらはもう持たない。」
「そんな・・・」
「ヘスペロス、損傷度50%、右舷沈黙!このままでは戦闘行動がとれなくなります!!」
「グズグズするな!!」
「でも・・」
「でもじゃない!!みんなの戻ってくる場所を確保するのもレイの役目だ。」
アカギはブリッジクルーも退艦させていて一人で操艦していた
モニターの中にもブリッジの炎がしっかりと見える
「ケイスケさん、アナタも早く!」
「好きな女を守って死ぬなら本望だよ、レイ。」
一機のザクがウッド目がけて突入して行く
「奴はソロモンの死神だ、あの06Rを止めるんだ!!」
コウジはザクに描かれた死神を確認するや叫ぶ
「そんな事言ったって!!!」
ジュンイチロウはキャノンを連射するが牽制にもならない・・・
MS−06R−1、残存するすべてのR−1型がR−1A型に改修されたはずだったのだがこの機体はR−1のままだった
「バズーカの残弾は一発、目標はあの木馬タイプだな、」
パイロットのユージはつぶやく
「チッ!!」
アカギはウッドをザクバズーカの射線上に飛び込ませ
弾頭はウッドの艦首に吸い込まれ爆発した
「くそっ、失敗か!!」
ザクは一撃離脱のスピードだったので仕方無くそのまま通り過ぎていった
「クッ!!まだだ、まだ沈むな!!」
誰かがアカギを殴り倒した
「グッ・・・だ、誰だ・・・」
崩れ落ちるアカギ
「レイ様、」
「ソトイ?いつのまに?」
「このままアカギ様をライフボートで射出します、拾ってください」
「ソトイはどうする?」
「もう脱出は不可能でしょう・・・」
「・・・」
「さらばです、レイ様」
ライフボートを射出した直後、レジェンドウッドは進路をジオンの艦に突入しムサイ2隻と爆沈した
「ヘスペロス、戦域より離脱、レジェンドベルに援護を!」
ジオンの艦隊は自らの被害も省みず強引に突破していった
後から合流した艦隊が追撃したがジオンのアナベル・ガトー大尉のYMS−14が放った試作ビームバズーカの前に
藻屑と散った、「悪夢」の言葉を残して・・・
「ソトイ!なぜ死なせなかった!!」
アカギはレジェンドウッドの残骸を見ながら嗚咽をもらした
「くそぅ!!!」
わらわらとあつまるジオンのMSにケイは水色のドムに有効打をあたえることが出来ずにいた
「大尉、ザコはまかせて下さい」
「トオルか?よしっ頼むぞ!」
「私がバックアップに付きます。」
「ナオミ、頼む。」
ケイはナオミを伴い、再度突入する
「何だってんだ、あのガンダム、俺ばかりを狙ってきやがる・・・?・・・あのエンブレムは・・・」
ドムのパイロット、マサム・ベイラ大尉には見覚えがあった、一週間戦争の際、サイド2の首都コロニーを核攻撃した時
最後まで抵抗していた連邦の空間戦闘機部隊の部隊章だ。
「なるほど、あの部隊の生き残りか。ならば相手をしてやらんとな。」
マサムはドムにバズーカではなくマシンガンを両手に持たせガンダムに向かった
「ほう、あのスカート付き出てきたな。」
「ケイ!」
「ナオミ、雑魚を寄せないでくれ。」
「解った。」
ケイはビームライフルを連射モードにして撃つがわずかにドムはかわす
元々ケイはビームを当てるつもりは無く、目的通りにドムの装甲に小さな穴を開けていったのだ。
「何だ?ヤツは・・・白兵狙いか!」
ビームライフルを捨てたケイはサーベルを抜き突進してきたのでマサムはマシンガンを連射するが
ガンダムの装甲はルナチタニウムでありマシンガンクラスでは貫くことが出来ないのだ
無駄を悟ったマサムはヒートブレードに切り替えて横殴りに振るった、
スピードを殺せなかったケイのガンダムは腹部に衝撃が走る
「グッ!!!」
ガンダムの右側面のモニターが破裂し、その破片はケイの体に刺さった
しかし先ほどのビームによって装甲、関節の強度が極度に低下していたドムの腕は肘から折れた。
「何だと?リック・ドムの装甲はこんなに脆いはずがな・・・」
マサラの意識はそこで消えた、コックピットを貫いたビームサーベルで消滅したのだ。
「・・・ノア、仇はとったぞ・・・」
コックピットに火花が飛び散る中、そう呟きケイはどうにかノーマルスーツの穴を応急処置していた。
隊長機を失い混乱し始めたジオンのMSに近辺にいたジムやボールが殺到してそのゲートの制圧は完了した。
「かなり酷い状態だな・・・」
「レジェンドウッド、撃沈、ヘスペロス、中破、レジェンドベル、小破・・・か・・・」
帰還してきたコウがヘスペロスを見た第一声がこれだった
戦闘が終了してコウ達573戦隊のMSが次々と帰還してきたのだが、傷ついていない機体はほぼ無い。
一番に傷ついた機体、それはアヤコの機体だった、
「そうか・・・ノゾミが・・・」
早くにビグザムを捕捉していたノゾミはそのビームの直撃を受けアヤコの目の前で消滅していて、アヤコの機体もその余波で大破していた、
他には右舷MSデッキの大破により整備員の半分が死傷、ナツミもユミもベッドの上だった
大破したヘスペロスはコンペイ島(旧ソロモン)に入港し修理を開始、再編成された第一機動艦隊の中核となる
レイはヘスペロスの艦長を退き、アカギ少佐が後任に指名され、レイの説得に応じて就任。
追加で配備される予定だったサラミス級が「ソロモンの亡霊」によって撃沈され573戦隊は2艦のみのままだった
「ケイスケさん・・・」
「レイ、何しに来た?」
「私は・・・」
「艦長たる者、艦と運命を共にする・・・これはキミのおじいさんの教えだ・・・」
「ごめんなさい・・・」
「・・・すまない・・・レイにあたっても仕方が無い事だったな・・・」
「・・・いいえ・・・ソトイの独断とはいえ、私の希望でもありましたから・・・」
「で・・・話は艦長就任の話か?」
「はい、」
「ウッドの乗組員の処遇は?」
「全員ヘスペロスに編入よ、」
「・・・・解った、提督に感謝だな・・・」
「ケイスケさん・・・」
レイはアカギの頭を胸に抱え込みアカギが生きている事の喜びを噛みしめた
レビル将軍の第一連合艦隊がコンペイ島に上陸する喧噪のさなか573戦隊には短い休息が与えられ
部隊は修理の間、半舷上陸で休息を取りコウは自室で休息していた所にシオリが訪れた
「コウ・・・」
「なんだ、シオリか、そんな所に立っていないで入りなよ、汚いところだけどな。」
「うん・・・ノゾミも逝っちゃったね・・・」
「あぁ・・・そうだね・・」
「戦争だからって、わかってはいるんだけど・・・」
「まあね、でもそれに拘っていると、次はシオリが死ぬかもしれないよ。」
シオリは後ろ手で扉をロックした
「シオリ?」
「私は・・・私は生き残る為にも支えが欲しい・・・」
「シオリ・・・」
「私はアナタが好きです、小さい頃から・・・ずっと・・・」
「僕もシオリが好きだよ、戦争が終わったら、結婚を申し込もうと思っていたくらいに・・・」
「ほ、ほんとうに?・・・」
「あぁ・・・」
「嬉しい・・・何でだろ・・・嬉しいのに涙が・・・涙が溢れて・・・」
コウはその姿にすでにサキやスズネとも関係を持っている言えなくなってしまい、そして
声を出せず震えるシオリの顎を上げて唇を重ね、涙を舐め取った
「コウ!!」
シオリはコウの胸に飛びついた、
(今はシオリのことだけ・・・)
シオリは想いをさらけ出しコウを受け止めた
コウの腕を枕にして微睡むシオリは
「二人で絶対に生きて帰ろうね。」
「あぁ、しかし二人でじゃないな。」
「?」
「みんなできらめきに帰るんだ。」
「・・・そうだねっ!」
573−9へ
